2022年6月24日から日本で公開された是枝裕和監督の新作
「ベイビー・ブローカー」をさっそく鑑賞してきました。
結論から書きます。
染み入る映画でした。2回目も観に行きます。
まず、映画の出だしは、赤ちゃんポストに赤ちゃんを置きに来た若い女性と、赤ちゃんポストのある教会の人身売買を暴くために張り込んでいる2名の刑事、そして赤ちゃんを養子に売ることで善意とお金を両立させているつもりの教会の2人組が物語の中心となります。捨てられた赤ちゃんはこれまで通りに教会の2人組によって養子に変われるはずでしたが、捨てた若い女性が赤ちゃんの元に戻ってきました。これをきっかけに、赤ちゃんの買い手探しの旅が始まりました。
赤ちゃんポストに子供を捨てた母親とその無責任さを責める人、捨てる側の思いと、捨てられた側の赦しが対話を通して入り混じり,そしてそれぞれの変化がうまれていくというロードムービーでした。
どこに心動かされたのかは、観た人の数だけありそうなので,自分の心に刺さったポイントを4つ書いておきます。
- 是枝監督の目線・・・映画を観ていてすぐに感じるのは,これは是枝監督の目線だなということです。映し出される人々は市井よりもさらに底辺のところで生きている人たち。法で言えば違法なことをしていますが、本人たちはそれを悪とは思っておらず、それぞれの正義と生きるために動いている、それを前途も悪とも切り分けない視点に、もちろん監督の映画なので当然なのですが、是枝監督の視点を感じました。絵で言えばタッチがあるというというところでしょうか。結構これはこれですごいことだなと思います。
- 赤ちゃんポストを巡り交わされる母親の責任論・・・旅をする中では登場人物達がたくさんの会話を交わします。特にフォーカスされるのが,赤ちゃんを捨てるポストの存在。このポストがあるから母親達は無責任に子供を産むんだ,というセリフや、そもそも産まない方が良かったのか?ポストがあるからこそ赤ちゃんは生き延びられる。しかしそこまでして生きる価値は肯定されるのか?など、それぞれの人生経験と価値観を通じて率直な問いかけがいくつもだされるのです。その度に自分の中ではどう捉えることなのかを考えずにはいられませんでした。
- そもそも子供の存在って誰のため?・・・ 赤ちゃんの買い手側もさまざまです。赤ちゃんに難癖をつけて価格交渉をしてくる夫婦もいれば,自分が死産を経験したため養子を迎えたい夫婦もいます。旅の初めはそれぞれにとっての子供が欲しい理由と都合で子供をコントロールしようとする姿勢が目立ちます。しかし旅を通じて、最終的には大人側が子供の存在を軸に自分たちがどうあるべきかへと変化を遂げるのです。この変化の過程がこの映画の醍醐味とも言えました。 いろんな経験とか人生を垣間見てきた人ほど,それぞれの思いもわかるだけに彼らの変化には心を揺さぶられるのではないでしょうか。
- 家族のカタチ・・・最終的に,是枝監督が問いかけたいテーマはここなんじゃないかと,今回鑑賞して感じました。これまでの作品を鑑賞していると余計にそのテーマが浮き上がって見えます。血のつながりが家族なの?父・母・子が家族なの?いろんな問いかけの後に垣間見えた家族のカタチに涙が溢れました。
ちょうど、昨日のニュースではアメリカの最高裁判所が、中絶の権利を保障しない判決をくだしました。
これにより中絶が違法になる州が今の段階で13に上ると報じられています。
産むという機能が備わっている女性(トランス・ノンバイナリー・アセクシュアル・・・全て含んだ上での)の
産む権利と自由は義務となりました。
この判決の背後にはアメリカのプロテスタントの価値観が大きく影響しています。
まさにベイビー・ブローカーの問いかけに通じるニュースで、この映画が今の時代に問いかけるものであることを
痛感させられるニュースでした。
日本でも、中絶は男性の許可なしには行えない、同性カップルの結婚は認められていない、
夫婦は同姓のみでしか家族を形成できないなどなど、家族を巡っては激論となっている課題がいくつもあります。
なかなか価値が変わらないしんどい課題を頭の片隅に踏まえつつ、鑑賞後はそれでもわたしたちは家族のカタチを変化させていけるのじゃないか、という希望を抱かずにはいられない映画でもありました。
涙が溢れちゃうので鑑賞は一人でひっそりがおすすめです。