読了しました。
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若桑みどり「戦争がつくる女性像ー第二次世界大戦の日本女性動員の視覚的プロパガンダ」
筑摩書房
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非常によかった。
特にウクライナへのロシア軍の侵攻が行われ、戦争の始まった今だからこそ
社会の周辺に追いやられていた女性たちがどう戦争に積極的に参加していたのか、
そうなるようにどのような視覚的プロパガンダが展開されたのかの検証は意義ぶかい。
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若桑みどり先生の分析によると女性たちは戦争を「反対していた」のではなく、チアリーダーとして「積極的に参加していた」風景が鮮やかに浮かび上がる。
それは戦争という大量の人的消耗を必要とするにあたり、兵士という死を担う男性の役割を補完する形で、牝馬的価値としてまた劣等労働力として求められていた女性の存在を、それでもこれまでの周縁よりは社会に参加できる、声が価値あるものとして認識してもらえるという女性側の切なる思いにあいまってのことであることを考えると、なんとも言えない。
市川房枝ですら、いやだからこそなのかと思うと・・・。
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若桑みどり先生の、タブローの検証ではなく、雑誌という媒体に掲載された絵たちを通じての分析も興味深い。
寺内万治郎や向井潤吉らがそのプロパガンダ的絵画に尽力していたのか、ということを初めて知った。不勉強だった。宮本三郎や伊原宇三郎、木下孝則などの名前も挙がっており時代と画家の魂の本筋の重なるところでもがいたのではないかと、作り手側として想像してしまいこれまた胸が心底痛い。
何より末席で作品を作るものとしては、絵画の果たした役割に悲しさを覚える。そしてそれは決して過去の話ではなく、今語られるべき話でもあることもため息になる。
彼らは戦後高い評価を日本の画壇から受けている。
そのままで良いのだろうか。戦争責任はもう問われないのだろうか。
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このような検証をされ、ともすると「男性」に対局としての「女性」に捉えられる女たちが実際に美果たした戦争での役割に向き合い、それを図象から読み解かれる若桑みどり先生に深い敬意を感じる。
ご存命であれば、今の時代のオピニオンリーダーであられることは間違い無いだろう。