2021年12月にアナザー・エナジー展の鑑賞ツアーを企画し実行しました。
計5名で鑑賞とアフタートークにご参加いただきました。全体の流れと感想のまとめです。
今回は世界各地から16名の作家作品が集まっています。ボリュームが大変なもので一度でみるために、初めに会場全体を一緒に早足で巡り見所を手短にお伝えしました。
そのあとはそれぞれのペースで鑑賞していただきました。鑑賞中はそれぞれのペースですが、途中参加者の方と同じ作品を前にしてお互いにどんなイメージやメッセージが汲み取れるかを話しながら鑑賞することもありました。
自分は今回は2回目ということで、ようやくゆっくりと作品たちに向き合えました。
(1回目の鑑賞の方はやはり情報が多すぎてちょいとお疲れに)
改めてじっくり周ると、全体として各作家たちが女性としてのライフステージの変化や社会情勢の影響をそれぞれに受け時代に向き合っている作品が多いことに気がつきます。
生きる背景を作品に落とし込み、表面的ではない深い知見で制作された作品たちを読み解いていくのは全く簡単ではありませんでした。
会場には各作家ごとの短いインタビュー動画が流されていました。それらも作家自身の芸術に対する姿勢についてのヒントになり、芸術と人生に真摯に向き合う姿勢を垣間見ることができました。
自分にとっては、アンナ・ボギギアンAnna Boghiguian 、ミリアム・カーンMiriam Cahn、アルピタ・シンArpita Singhの作品は特に印象深いものでした。ちょっと詳しく感想を残しておきます。
- アンナ・ボギギアンAnna Boghiguian
エジプト・カイロを背景に活躍する。今回の作品はシルクロードをキーとして日本の製糸工場で働き、繭からシルクを抜き出した女工たちをドローイングと立体作品で展示する。
シルクロードの歴史的、地理的流動性をドローイングを切り抜いた立体物にしてそれを天井から無数に吊るされた糸の中に配置された作品は見た瞬間に息を呑んだ。
女工たちの犠牲とそれにより富を得た資本家の対比が鮮やかに浮かび上がる。特にTOYOTAの車に象徴される黒く塗られた形は男性中心の資本主義という制度の維持に女性たちがなもなき存在として酷使されたことの象徴のようで、作品の中でも忘れ難い造形物だった。
全体が物語的でもあり、それでいて実際の歴史が検証されており骨太でいくらでもみていられる作品だった。
- ミリアム・カーンMiriam Cahn
彼女の作品は以前別の機会に東京で見ていた。初見でも女性たちに向けられる暴力が描かれていることがわかり記憶に焼き付いていた。今回のアナザー・エナジー展に行こうと思う理由の一つには彼女の作品が出る、ということもあった。
一室に配置された彼女の大なり小なりの作品から、改めて女に向けられる暴力性に対する怒りや、生き延びることが命懸けの難民たちに対する視点を感じた。
多く描き込まれているわけではないのに、絵画内に広がる茫漠とした空間に声なき声がこだましているようで、ここに聞こえてくる詩はなんだろうか、と耳をすますよようにして鑑賞した。
「美しきブルー」にある海中に沈みゆく難民の残り香のような手の残像。あんなものをどうして表現できるのか。 圧倒される。
- アルピタ・シンArpita Singh
インドの作家。 無数のイメージの繰り返しの組み合わせで、複雑な物語を描く。
切れ切れに置かれた文字たちからは女性に向けられる殺戮・暴力・レイプという風景を垣間見せられる。
地図的な表現の中には、単一視点で眺めた限定的意味の土地ではなく、彼女の中で時間と空間を再構築された地理的イメージが重層的におりなされ、物語に絡みつき複雑な味わいになっている。
誰の視点での物語であるのかを理解することが大切で、そこを見逃しては作品には入ることができないと感じた。インドという社会の持つ文化をベースにしているローカル性が作品のオリジナリティをあげている。それでいて作品から聞き取れるメッセージは地域性を超えたものだった。素晴らしい作品たちで、励まされた。
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ずいぶん会場を歩いたので、鑑賞後カフェに向かうときはホッとする思いもありました。美味しいコーヒーとスイーツで休息です。また互いの一番印象に残った作品を紹介し合いました。今回の参加者は18歳から60代の方まで幅広く、それぞれの いろんな感想を聞き合いました。それらを通じていい交流ができたのではないでしょうか?
余韻の残る鑑賞ができました。
一人でもいい鑑賞もできますし、複数人で鑑賞することはより豊かな広がりができることを私も経験できました。
また、こういう機会を設けていきたいと思います。
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『アナザー・エナジー展は70代以上の女性アーティスト16名による国際的な現代アート展です。現代アートがよくわからない、という方もお楽しみいただけるように、油彩作家林美蘭が独自の視点から、展示の見所をお伝え
いたします。今年の最後に素敵な展示を一緒に鑑賞に行きませんか?
今回、アナザー・エナジー展の鑑賞ツアーとアフタートークを企画した理由を3つ、ご紹介します。
1つ目。まず女性アーティストだけの展示の意義に共感しました。
女性アーティストだけの作品を集めるということにややもすると、偏ってる!と思われる方もいるかもしれません。
でも、ご存知ですか?アートの歴史はほぼ男性アーティストの作品だけでした。
そもそも偏った美術的価値観の中にいたことを、私たちは当たり前としてやってきていたんです。
女性だけの展示ではどんな作品が集うのか興味が湧きませんか?
2つ目。ぜひ、あなたに作品のエネルギーを感じて欲しいからです。
今回の作品達は、アーティストが自分自身の内面に向き合うだけではなく、自分の外に広がる世界に反応して制作された作品がたくさんあります。世界に対して何かを叫んでいるのです。
とてもエネルギーを感じます。
それがすでに70歳を超えたアーティスト達によるものだ、なんて驚きです。年齢を重ねる未来に前向きになれるのではないでしょうか。
3つ目。いろんな人と感想を交換したいと思いました。
一人一人のアーティスト達の作品に刺激を受け、私は誰かに話したいし語りたい。そして他の人の感想も聞きたい!
この展示では、ジェンダーや植民地支配をひきずった価値観、西洋主義からの脱却など、今まさに、私たちが生活の中で潜在的に顕在的に抱えている課題が浮き彫りになります。
作品を通じて課題について、そして私たちにはそれがどう響いたのか皆さんと率直な感想を交換できたらな、と思っています。
以上3つの理由を書いてみました。おもしろそうだな、と思われましたらお気軽にお申し込みくださいませ。
今年最後の展示会を楽しみましょう。
日時:12月14日13:00~16:00 六本木ヒルズ・蜘蛛のオブジェ下集合のち作品鑑賞へ
16:30~17:30 近隣カフェにてアフタートーク会
会場:森美術館 東京都港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズ森タワー
費用:チケット代1800円+アフタートーク飲食代
申し込み締め切り:12月10日*美術館の入場にはコロナ禍のために事前申し込みが要ります。
お申し込み・お問い合わせ:miranartworks@gmail.com』